過去に照準を合わせる
– 影のように寄り添う歴史 –
今、目の前に壁があるとする。
いかにして壁の先に進もうか
壊す、登る、回り道を探す
何かと何かを隔てる為に壁はある。
壁の向こうには何かが存在している
境界線。
先の見えない壁と
先を見渡せる透明な壁
どちらも、境界線だ。
行き止まりだと思っていた。
もう前に進めないと思っていた。
すごく苦しかった。
真っ暗で怖かった。
渇くほど泣いた。
ある意味、先を見渡せる壁だった。
光がなければ、暗闇の先は暗闇だ。
壁の前で、うずくまった。
誰かの声が聞こえた。
頭の中に響いていた。
誰かの姿が浮かんだ。
暗闇でもはっきり見えた。
うずくまるのをやめた。
壁を背にして、振り返ってみた。
遥か先にぼんやりと始まりの見える道があった。
すぐ目の前には、昨日食べた晩ご飯が置いてあった。
手に取ろうとしても掴めなかった。
次に、横を向いてみた。
驚いた。
たくさんの同じような壁と
同じようにうずくまるヒトが、沢山いた。
左隣の壁の前でうずくまるヒトは、僕のことに気がついていないようだ。
右隣の壁の前でうずくまるヒトは、立ち上がって、道を歩き出した。
歩き出して、何秒か経った時、そのヒトは突然消えて、壁と道も一緒に消えた。
周りをよく見渡してみることにした。
すると、いくつか不思議なことに気がついた。
あるヒトの壁の向こうには、女性が立っている。
あるヒトの壁の向こうには、男性が立っている。
あるヒトの壁の向こうには、お金が山積みになっている。
あるヒトの壁の向こうには、折れた松葉杖が落ちている。
あるヒトの壁の向こうには、血のついたナイフが転がっている。
俺の壁の向こうには、何があるのだろうか。
もっとよく見渡してみた。
壊された壁
はしごが立てかけられた壁
向こうからロープが渡された壁
それらの壁の前にはヒトはいなかった。
道が壁の向こうにも続いているのが見えた。
俺の壁の向こうにも、道が続いているのだろうか。
壁を前にして、何日が経ったのか。
少しずつ、この壁への理解を深めていった。
考察をし続けた。
左隣のヒトは、うずくまったままだ。
俺は壁を壊してみることにした。
手で、足で、壁を壊そうとした。
体当たりもした。
頭突きもした。
ほんの少し、壁にヒビが入った。
すでに俺の身体は傷だらけ。
この壁が簡単には壊れないことは知っていた。
何個か隣の壁の前にいるヒトが同じように、
壁を壊そうとしているのを見ていたから。
右隣のヒトのように消えたくなかった。
左隣のヒトのようにうずくまったままは嫌だ。
少し休憩してから、もう一度壁を叩いた。
小さなヒビから亀裂が入って、一気に壁は崩れた。
よかった、道は続いていた。
まだ壁の向こうにある何かは見えない。
崩れた壁の上を歩いて、道を進んだ。
壁の向こうの道は、雪が降っていた。
だけど寒くはなかった。
もう少し歩くと、家があった。
その家に入ると、なぜか急にすごく眠たくなった。
今夜のお話はこれでおしまい
この地球に隅っこは無いことを祈り、眠る。
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