哲学的日常報告

哲学的日常報告#17
携帯の画面

デリバリー

 

「今から行くね」

 

少し足早に部屋を片付けていた。

外はまだ少し明るい

君の到着までの時間をどう過ごそうか。

 

「まだかな」

独り言は静かな部屋に響く。

BGMは何にしようか。

まだ始まってもいないのに、ソワソワしている。

 

少しだけ当てもなく生きてきた。

小さな道標はいつもあったような気がする。

平和だと感じたこともあるし、

不平等だと感じたこともある。

 

「会いたいね」

その言葉は心底、心地よいものだった。

ほんの少しだけなら期待してもいいよな。

 

君と別れる時、外が明るかったらいいな。

BGMは何にしようか。

ソファーの位置を少し変えてみる。

 

街の全てが幸せ色に染まる。

夕方の色。

夜が始まる色。

君の足音が聞こえる。

 

きっとまた一瞬で過ぎてしまうその時間を

まだ終わらないでって気にする。

 

あえて玄関から離れている。

チャイムが鳴って、

僕の足音が不自然にならないように

 

「もうすぐ着くよ」

携帯の画面が光って、画面に映る情けない僕の顔が消える。

ほっとして、次に緊張が押し寄せる。

いつものことだ。

 

玄関を開ける。

君の靴を見て、幸せを感じる。

その後、顔に目を移す。

目はまだ見れないな

緊張が伝わってしまうから

赤い口紅と綺麗な髪が見えた。

 

背中に感じる君の視線

ソファーの位置、これでよかったかな

BGMは君の好きな歌にした。

 

「ご飯は食べた?」

「ううん」

「何か作ろうか?」

 

本当は用意してた。

君の好きな僕の料理

 

「これぐらいしか作れないけど、いい?」

この会話ももう何回目かな

 

バレてるんだろうなって

わかってるけど、好きだから

君が好きだからって

ずっと心の中に

ずっしりと心の底に

目を見て言えたらいいのにな

 

「食べたら映画でも見ようか」

「見たい映画ある?」

ネットフリックスで映画を探す君の横顔

たまにLINEを開いてることは知ってる。

料理に夢中なフリしてごまかす。

 

「時間、止まらないかな」

独り言が今日もはかどる。

 

君は聞こえないフリしてくれてることも知ってる。

だから独り言、照れ隠しのつもりで

君の優しさだけど、本当は辛かったり

 

答えは出ないまま

エンドロールが流れる

 

「今日は泊まってく?」

「うん」

「わかった」

 

この会話ももう何度目かな

性懲りもなくコンドームは買ってあって、

君との為だけに買ってあるって言えなくて、

プレイボーイのフリなんかしてる。

 

君が悩みを抱えてることは知ってる。

その悩みを僕が解決できないことも知ってる。

 

今日も君と別れる時、外は明るかった。

君は寝に帰り、

僕は仕事に行く。

 

君に渡した3万円

高いか安いか

僕は分からないまま

黒い画面がまた明るくなるのを待ってる。

 

愛の証は

ゴミ箱の中

伸び切ったコンドームだけ

 

たぶん悲しくない

 

今日の話はこれでおしまい。

葡萄の愛情表現は、巻きついて離さないこと。

 

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